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相続・事業承継Vol.10 株式の機能①~事業承継における問題~

株式の機能①

相続・事業承継Vol.10~事業承継における問題~

 

こんにちは。SUパートナーズ税理士法人の押味です。

 

暑い日が続きますが、皆様いかがお過ごしでしょうか。

業種によって忙しい時期は異なると思いますが、

会計事務所にとって夏は比較的落ち着く時期といえます。

ただ、8月の前半には税理士試験がありますので、

「勝負の月」というイメージもあるのです。

 

さて今週からは “事業承継における株式の機能”をテーマに、まず

“そもそも株主の権利には何があるか”

“事業承継における問題”

という2点をご一緒にみていきたいと思います。

 

突然ですが、皆様の関わりのある会社で、次のような株主はいらっしゃいませんか?

もしいらっしゃる場合、後々大変なことになってしまうかもしれません。

  ・現経営者、後継者以外の多数の株主

  ・所在がわからない、連絡をとっていない株主

  ・「名義株主らしい」という株主

  ・現経営者、後継者に対して否定的な株主

  ・親族関係がない、遠い親族関係の株主

  ・後継者の兄弟姉妹

                    etc…

 

そもそも株主の権利には何があるか

株主は、

・配当などをもらう権利

・議決権

の2つの権利を持っているといえます。

事業承継ではこのうちの、議決権が問題となりがちです。

当然、議決権とは、

「株主総会での決議を左右することができる権利≒会社の運営に関する重要な決定権」

で、基本的には単純な多数決で優劣が決まります。

 

また、この決議には、「普通決議」とちょっと厳格な「特別決議」があります。(特殊な「特殊決議」などは無視します)

この2つの決議は、「決議する内容」「会が成立するための議決権数」「可決するための議決件数」に違いがあります。

種類

決議する内容

成立するための数

可決するための数

普通決議

・役員の選任解任

・役員の報酬

など

過半数の出席

出席数のうち過半数

特別決議

・定款の変更

・組織再編

など

過半数の出席

出席数のうち2/3以上

※理解のために、極端に簡単に、かつ、焦点を絞って説明しています。

会社によっては事情が異なることがありますので、ご注意ください。※

 

 

事業承継における問題

それでは、議決権が問題となってしまう事例として、

”仲の良かった子供たち3人が、

事業承継をきっかけに不本意ながら仲たがいしてしまい、

結果的に事業に失敗してしまう物語”を、

議決権割合に注目しながら見てみましょう。

<事例>

【第一話】

父Aは、B商事㈱を設立し40年経営してきました。

その後3人の子供(長女C、長男D、次男E)に、数年かけて15%ずつ株式を贈与していました。

 

【第二話】

その後、父Aは事業を長男Dに継いでもらおうと思い、長男Dを副社長にしました。

しかし、Aは財産=株式を、平等に子供たちに残したいと考えており、

亡くなるまで保有割合はそのままでした。

長男Dを副社長にした後、父Aが急逝します。

長男Dが事業を承継することは家族全員が同意していましたが、

遺産分割協議では、株式については「父Aは平等に残したいと言っていた」

という意見があり、子供たちで1/3ずつ相続しました。

 

【第三話】

そして、父Aの死は急だったこともあり、

その後しばらく会社の業績は落ち込みましたが、

任された長男Dは死に物狂いで働き、なんとか持ちこたえていきました。

しかし、その間、従業員の気持ちを顧みることもできない場面もしばしば。

従業員は、常務である次男E(実質的に社内の切り盛りは常務の仕事だった)や、

経理部長として働いていた長女Cに不満を漏らすことも。

長女Cは、年上にもかかわらず長男Dや次男Eの陰にいて、

いままであまり日の当たってこなかった自分が今度は頼られる立場となったことで

使命感を持ちます。

Cは法律事務所に勤務する夫になんとなく相談したところ、

「CとEさんで議決権の過半数持っているなら解任できるよ」

と告げられます。

自宅などめぼしい財産を相続した長男Dに対して、

他人には漏らすことのできない不満、

自分でも気づかなかった不満があった次男Eは、長女Cに協力することに…。

 

<議決権>

上記の事例における議決権は、次のように変化しています。

                         【第一話】                                 【第二話】

父A:100%     →       父A…55%         

                   長女C…15%   →  長女C…33.3%

              長男D…15%      長男D…33.3%

              次男E…15%            次男E…33.3%

【第一話】の時点では「過半数を父Aが持っている」状態ですので、

父Aは基本的には思うがまま事業を行えるといえます。しかし、

【第二話】の時点でCDEが1/3ずつ持っており、

【第三話】の相続の結果、「過半数(66.6%)を長女Cと次男Eが持っている」状態に。そのため、この二人の思うままになります。

具体的には、「長男Dの解任」をすることもできてしまうのです…。

 

この事例では、本当に悪い人は一人もいませんが、

残念な結果になってしまったと言わざるを得ません。

 

 

事業承継と株式承継の関係

一口に「事業承継」といっても、一歩踏み込んで、

「事業」とはなにか?なにを「承継」するの?と考えてみると、

なかなか掴み難いものです。

 

なぜかというと、どの会社でも事業承継に当たっては、

数多くの乗り越えなければならない課題があり、

非常に長い時間を要する

からです。

そして、このSUレターで見てきた通り、数多くの課題の中でも、

ほぼ100%の会社が直面する課題が“株式の承継”なのです。

 

例えば冒頭のような株主がいる場合、事例のように

・株式が分散する

・後継者が経営しにくい

という、まさに「事業承継の弊害」となってしまうのです。

 

次回のSUレター 事承承継に役立つ?「種類株式」導入編①!

でも、実は、対応策はたくさんあります。

次回は、そんな対応策の中でも、「株式の機能」に焦点を絞っていきます。

ずばり、「種類株式」を活用した対応策のご紹介です。

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