ブログBlog

国際税務Vol.39    差し押さえについて~国の権限はどこまで及ぶのか?~

差し押さえについて

~国の権限はどこまで及ぶのか?~

国際税務Vol.39

 

こんにちは。SUパートナーズ税理士法人の乾です。

 

今回は滞納税金の差し押さえというお話です。

現在国税庁のHPで発表されている滞納税金は、平成30年末時点で8,118億円(全税目)となっています。新規の滞納発生割合は税収総額の約1%です。
国税庁は15年連続2%を切った、と成果を広報していますが、金額という観点ではまだまだ滞納税額をしっかり徴収してもらわなければ、真面目な納税者から納得は得られません。
今回は少しマニアックですが、滞納税金の差し押さえについてみていきたいと思います。

 

税金の納付期限を過ぎると、一定期間が過ぎたあとに督促状が送付されます。国税の場合は滞納開始から50日以内に督促状が送られてきます。督促状が送付されているにも関わらず税金が納付されない場合は、10日以上経過後に差し押さえが可能となります。

そのため、督促状が発送されて10日以内に納付できなければ、法律上は差し押さえを受けてしまうことになるのです。

 

税金の滞納に関する差し押さえは、法律で定められ、通常の民事の債権と異なる自力執行権が与えられているのが特徴です。そのため裁判所での判決などの手続きを経ることなく差し押さえすることができます。


税務署は「滞納処分のため滞納者の財産を調査する必要があるとき」は国税徴収法第141条、142条に基づいて財産調査を行うことができます。どのようなことを調べられるのでしょうか。

具体的には以下のような内容について調査が行われます。

・勤務先への問い合わせ
・取引先の状況
・収入の状況
・家族構成
・戸籍や住民票の推移の状況
・所有している動産・不動産・債権、銀行口座およびその取引の内容
・生命保険の契約状況など

 

では滞納者の財産であれば何でも差し押さえすることが可能なのでしょうか?

法律には「差押えの対象となる財産は、法施行地域内にあるものでなければならない。」と記載されているため、「国内にある財産」であれば差し押さえられます。逆に言うと「国外にある財産」は差し押さえできません。

財産の所有者が日本人であっても、財産のある国は法施行地ではない外国であるため日本国の権限が及ばないためです。

 

では海外の財産は隠し得なのか?と言いますと、、、7年前から始まった制度があります。

「徴収共助」という言葉をご存知でしょうか?

 

この「徴収共助」は2013年10月に「税務行政執行共助条約」の発効により導入されました。今や欧州を中心に65か国が加盟しています。これには海外の税務当局と預金口座の情報を交換する制度(CRS)などの背景もあって、OECDも積極的にすすめています。

日本から海外への要請件数は導入直後わずか3件程度でしたが、2018年7月~2019年6月には13件、2019年7月~2020年6月には29件となったようです。徴収でも国際連携を強く進めていく方針です。

徴収共助の実績として、ニュースで大きく取り上げられたものとして、日本の贈与税を滞納していたオーストラリア人が、この徴収共助制度により8億円を徴収されました。この人は日本に住む親から数十億円の贈与を受けていましたが、贈与税を納税していませんでした。そこで日本の税務当局は、まず日本の預金を差し押さえ、不足分をオーストラリアの税務当局に協力を要請しオーストラリアの預金を差し押さえてもらいました。

このように申告漏れや所得隠しなどを見つけて、課税処分を実施して実際に税金を徴収できれば国税当局としては大成功です。

ただ、今まで合計約53億円の徴収共助の要請を行ったようですが、徴収できたのは約9億円です。このうち約8億円は上記のオーストラリア人の案件によるものですから、日本の要請通りにスムーズに差し押さえできるわけではなく、どこまで対応してもらえるかは各国に任せるしかない状況がうかがえます。