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国際税務Vol.46 簡易TP調査がやってくるかも?

簡易TP調査がやってくるかも?

国際税務Vol.46

皆様こんにちは。

 

コロナ禍において今までのように税務調査を行うことが難しくなり、税務当局もいろいろと対策を講じる必要がある中、昨今簡易TP (TP は移転価格税制の英語・Transfer Pricing taxation の略)を強化しようとしており、実際件数も増加しているようです。

 

通常移転価格の税務調査は専門の調査官が法人税調査とは別に行うのですが、内容が非常に複雑であり、調査期間が長期に渡ることが多くなります。当局側、企業側にとっての負担が非常に重く、特にコロナ禍において従来の手法で調査を行うことが困難となっていました。
  そこで当局は内部の規定を整備して、企業グループ内限定の役務提供取引に関する問題は一般の法人税調査においても調査できるようになりました。

 

これまでは移転価格の調査というと、大規模に海外取引を行っている企業にしか来ない、というイメージがあったかと思いますが、親子会社間の役務提供の対価については、たとえ小規模な取引であっても今後はつつかれる可能性が高くなってまいりました。

ここで言う役務提供とは、企業の本来業務に係る取引ではなく、グループ内に限定された役務提供で、さらにその中でも支援的な性質を有していて企業グループの中核的活動に直接関連しないものとなります。

  すなわち、親会社が海外子会社の業務の効率化やサポートのために行う総務的・管理的な内部事務、例えば財務会計、法務、情報通信サービス、人事や研修、福利厚生、広報の支援のような事務が該当します。

 

通常の移転価格の調査と異なる点は、取引が独立企業間価格で行われているか否かを調査する際、簡便法が選択できるという点にあります。簡便法とは、役務提供に要した総原価そのもの、又はその105%相当額を独立企業間価格とする方法です。

105%相当額というのは原則的な方法の一つである原価基準法に基づく考え方ですが、適切なマークアップ率の算定は労力を要するものであるのに対し、5%のマークアップを割切りで使用できるのは納税者にとっての負担がだいぶ少なくなると思われます。

 

原則的には105%相当額が独立企業間価格となりますが、事業活動の重要部分に関連していないもの(利益の獲得に大きく貢献したり,事業の成否を決定付けるような活動でないもの)、本来の業務に付随して行われる役務提供(例えば売手が設備の操作方法等を指導するなど)については総原価をもって独立企業間価格とすることができます。

  総原価とは、その役務提供に係る直接費(担当者の給与・手当・交通費や法定福利費等)だけではなく,間接費(役務提供の担当部門や補助部門の一般管理費等)も含まれます。ただ総原価の計算も、実際に行うとかなり煩雑な作業となるため、あらかじめ合理的な算定基準を設け準備しておくことが必要でないかと思います。

 

親子会社間においては「身内だから」という考えから無償や極度に低い価格によるサービスを行ってしまうこともあり得ますが、税務の観点からはNGとなってしまいます。判断基準は、「その活動が,国外関連者にとって経済的又は商業的価値を有するものか否か」となり、まずはそれを意識することから始める必要があります。

 

本格的なTP調査とは無縁、と思って油断をしていると突然この簡易TP調査が降ってくるかもしれません。これからは国外の関連者との取引は金額の多寡にかかわらず、常にTPの問題を念頭において行うことが必要ですね。