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国際税務Vol.47 ユニバーサルミュージック事件

ユニバーサルミュージック事件

国際税務Vol.47

こんにちは。SUパートナーズ税理士法人の乾です。

 

今回はユニバーサルミュージック合同会社(以下、ユニバーサル社という)の判決についてのお話です。

最高裁(第1小法廷 岡正晶裁判長)は2022年4月21日に国内で音楽事業を行う大手レコード会社であるユニバーサル社が東京国税局から受けた更正処分の取り消しを求めた訴訟の上告審判決で、国側の上告を棄却しました。

 

これにより国側の敗訴が決定となりました。

この事件はユニバーサル社が一連のグループ内の組織再編の中で、グループ企業の外国法人からの多額の借入金利息を損金算入したことが、法人税を「不当に減少させるものだ」として、税務当局から同族会社の行為計算否認(法人税法132条第1項)の適用を受けたことから裁判になっていました。

法人税を不当に減少させる行為計算があったと認められる場合、それを否認して法人税を再計算できる法人税法132条1項は、「伝家の宝刀」と呼ばれています。

今回最高裁は、ユニバーサル社の組織再編について「税負担の減少をもたらすことが含まれていた」とする一方で、税負担の減少以外に経済的合理性が認められると判断されました。

 

そのため本件借り入れは、法人税法132条1項にいう「これを容認した場合には、法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」には当たらないとして国側の上告を棄却し、法人税51億2千万円、加算税約7億1万円、合計約58億3千万円の追徴税額の取り消しを認めました。

 

どのような事件であったか

ユニバーサル社が2008~09年にかけて行った組織再編に伴ってフランスのグループ会社から約866億円を借り入れ、関連会社の吸収合併するなどに充てたことが発端で、ユニバーサル社はグループ企業に支払った利息累計約181億円を損金として計上していました。

ユニバーサル社はグループ内のCMS会社(CMSとは、Cash Management Systemの略で、グループ企業内の余剰資金を管理し、資金不足会社と調整するグループ内の金融機関のような役割を果たす会社)から多額の借り入れを行っているが、親会社からも同日に追加出資約295億円が行われており過小資本税制をクリアしています。

過少資本税制とは
簡単に言うと資本持分の3倍を超える借入に対する支払利子は損金算入を認めないというものです。これにより所得を国外へ移転させることに一定の制限を設けています。

またこれとは別に過大支払利子税制というものもあり、双方の制度の損金不算入額がある場合には、いずれか多い金額が損金不算入とされます。

過大支払利子税制とは
簡単に言うと調整所得金額の20%(令和元年改正前は50%でした。ユニバーサル社との争いが始まって改正されたのでしょうね。)を超える支払利子は損金算入を認めないというものです。

 

デット・プッシュ・ダウン

なぜユニバーサル社が海外のグループ会社から借入することとなったのかと言えば、グループ内部で組織再編を行う過程において、デット・プッシュ・ダウンが行われたためです。

デット・プッシュ・ダウンとは、企業グループにおいて借入金の返済に係る経済的負担を、企業グループの資本関係の下流にある子会社に負担させることです。その経済的負担をグループ内のどの子会社に負わせるのかについては、財務上の観点からは、規模が大きく多額の利益を計上している事業会社に対してより多くの負債を負担させるのは合理的であるとされています。

 

ユニバーサル社は、デット・プッシュ・ダウンの方式による買収について、借入れは独立当事者間の経済条件で行われており、第三者間で通常行われる買収と何ら変わりがないと主張するなど、正当な事業目的を有する経済的合理性が認められると主張しました。

一方、課税当局側は、グループ会社の親法人の財務上の観点からの合理性は間接的なものであり、ユニバーサル社にとっては約866億円の負債が増加し、約300億円の余剰資金が失われ、その負債に対する年数十億円もの巨額の利息を支払い続けるという犠牲を払うこととなるのであるから、ユニバーサル社の主張するような間接的かつ抽象的な利益がユニバーサル社の犠牲を上回るとは到底いえず正当な事業目的を有する経済的合理性が認められないと主張しました。

 

経済的合理性の有無

対象となる行為又は計算が、法人税を不当に減少する結果となるかどうかの判断要件として「経済的合理性の有無」があります。

ポイントとして
①一連の取引が通常想定されない手順や方法に基づいたり、実態と乖離した形式を作り出したりするなど不自然なものであるかどうか
②税負担の減少以外にそのような組織再編成を行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在するかどうか

などの事情を考慮することであると最高裁は述べています。

 

第一審判決において、「企業グループは、事業に必要な資金を外部からの出資又は負債により調達し、調達した資金を企業グループ内の各社の資金需要に応じて分配するところ、外部から資金を借り入れた親会社がこれを子会社に出資する場合には、子会社は負債の経済的負担を負わないのに対し、親会社が外部から借り入れた資金を子会社に貸し付ける場合には、負債の経済的負担が子会社に移転することになる。財務上の観点からは、規模が大きく多額の利益を計上している事業会社に対してより多くの負債を負担させることが合理的であり、税務上の観点からは、税率の高い国で多額の利益を計上し多額の税金を負担している会社に対してより多くの負債を負担させることが合理的である」と判事した。

最高裁判決でも、この争いにおけるデット・プッシュ・ダウンの合理性を認め、ユニバーサル社の借り入れや組織再編について「ユニバーサル社に多額の利息債務を負担させることにより、税負担の減少をもたらすことが目的に含まれていたといわざるをえない」としつつも、「借入金が各内国法人の株式の購入代金及びその関連費用にのみ使用される約定の下に行われ、借入金額が使途との関係で不当に高額とは言えないことや、利息及び返済期間がユニバーサル社の事業計画書の利益に基づいて決定され、利息の支払いが困難になったこともない」として「これらのことから、本件借入が、経済的かつ実質的な見地において不自然、不合理なもの、すなわち経済合理性を欠くものとはいえない」として、法人税法132条1項に当たらないとしました。

 

革新的な判決

今回の最高裁で特筆すべきは、経済的合理性の有無を検討するにあたり、当該対象法人のみの利益だけでなく、グループ全体の利益や外国の関連会社においての外国の税務上のメリット(米国におけるチェック・ザ・ボックスの選択)を享受することも含め経済的合理性が判断されており、今までと一線を画した判決となっていると考えます。

一方、国税当局からはこれを認められると「租税回避に対応できなくなる」と危惧する声も上がっていると聞きます。

一税理士としては、租税法律主義に基づき納税者に税務リスクを負わせない明確な税務行政が行われるべきと考えます。