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相続・事業承継Vol.51 贈与税の暦年課税が見直されます!(令和5年度税制改正大綱を受けて)

贈与税の暦年課税が見直されます!(令和5年度税制改正大綱を受けて)

相続・事業承継Vol.51

こんにちは、SUパートナーズ税理士法人の溝口です。

 

以前のSUレター(Vol.48)で、相続税・贈与税の一本化の動向を確認しましたが、令和4年12月16日に発表された令和5年度税制改正大綱において、暦年課税や相続時精算課税の見直しが示されました。

今回は主に暦年課税及び相続時精算課税の見直しについて、その内容を確認したいと思います。

 

(相続税・贈与税のあり方)

 令和5年度税制改正大綱の基本的考え方において、経済社会の構造変化も踏まえた公平で中立的な税制への見直しとして、相続税・贈与税に関連して「資産移転の時期の選択により中立的な税制の構築」を次のように示しています。

 

 ・高齢化等に伴い、高齢世代に資産が偏在するとともに、いわゆる「老老相続」が増加するなど、若年世代への資産移転が進みにくい状況にある。

・高齢世代が保有する資産がより早いタイミングで若年世代に移転することとなれば、その有効活用を通じた経済の活性化が期待される。

・一方、相続税・贈与税は、税制が資産の再分配機能を果たす上で重要な役割を担っている。高齢世代の資産が、適切な負担を伴うことなく世代を超えて引き継がれることとなれば、格差の固定化につながりかねない。

・わが国の贈与税は、相続税の累進負担の回避を防止する観点から、相続税よりも高い税率構造となっている。実際、相続税がかからない者や、相続税がかかるものであってもその多くの者にとっては、贈与税の税率が高いため、生前にまとまった財産を贈与しにくい。

・他方、相続税がかかる者の中でも相続財産の多いごく一部の者にとっては、財産を生前に分割して贈与する場合、相続税よりも低い税率が適用される。

・このため、資産の再分配機能の確保を図りつつ、資産の早期の世代間移転を促進する観点から、生前贈与でも相続でもニーズに即した資産移転が行われるよう、諸外国の制度も参考にしつつ、資産移転の時期の選択により中立的な税制を構築していく必要がある。

 

(資産移転時期の選択により中立的な税制に向けて)

 では、資産移転時期の選択により中立的な税制に向けて、どのような見直しを行うとしているのか確認してみましょう。

①相続時精算課税制度の使い勝手向上

 
 相続時精算課税制度は、次世代への早期の資産移転と有効活用を通じた経済社会の活性化の観点から導入され、選択後は生前贈与か相続かによって税負担は変わらず、資産移転の時期に中立的な仕組みとなっている。同制度の使い勝手を向上させるため、暦年課税と同水準の基礎控除を創設する。これにより、生前にまとまった財産を贈与しにくかった者にとっても、次世代に資産を移転しやすい税制となる。

 

②暦年課税における相続前贈与の加算

 
 現行、相続開始前3年以内に受けた贈与は相続財産に加算することになっている。暦年課税においても、資産移転の時期に対する中立性を高めていく観点から、相続財産に加算する期間を7年に延長する。その際、過去に受けた贈与の記録・管理に係る事務負担を軽減する観点から、延長した期間(4年間)に受けた贈与のうち一定額については、相続財産に加算しないこととする。

 

③贈与税の非課税措置

 経済対策として現在講じられている贈与税の非課税措置は、資産の移転に対して何らの税負担も求めない制度となっており、格差の固定化防止等の観点も踏まえながら、不断の見直しを行っていく必要がある。

 教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置については、節税的な利用につながらないよう所要の見直しを行った上で、3年延長する。次の期限到来時には、利用件数や利用実態等を踏まえ、制度のあり方について改めて検討する。

 結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置についても、節税的な利用につながらないよう所要の見直しを行った上で、2年延長する。次の適用期限の到来時には、利用件数や利用実態等を踏まえ、制度の廃止も含め、改めて検討する。

 

(相続時精算課税制度の見直し)

 相続時精算課税制度の見直しについて、その内容を具体的に確認してみましょう。

<現行の相続時精算課税制度>
贈与時に2,500万円までは非課税となりますが、相続発生時には、相続財産に戻して相続税を計算する制度です。

<今回の見直しポイント>
現行の制度に基礎控除が110万円加わります
現行の制度では、少額であっても申告が必要でしたが、基礎控除を設けることで、制度利用の推進を図りたいようにも思われますね。
なお、この改正は令和6年1月1日以後に贈与により取得する財産に係る相続税又は贈与税について適用されます。

なお、具体的な施策は次のとおりです。

 ① 相続時精算課税適用者が特定贈与者から贈与により取得した財産に係るその年分の贈与税については、現行の基礎控除とは別途、課税価格から基礎控除110万円を控除できることとするとともに、特定贈与者の死亡に係る相続税の課税価格に加算等をされる当該特定贈与者から贈与により取得した財産の価額は、上記の控除をした後の残額とする。

(注)上記の改正は、令和6年1月1日以後に贈与により取得する財産に係る相続税又は贈与税について適用する。

② 相続時精算課税適用者が特定贈与者から贈与により取得した一定の土地又は建物が当該贈与の日から当該特定贈与者の死亡に係る相続税の申告書の提出期限までの間に災害によって一定の被害を受けた場合には、当該相続税の課税価格への加算等の基礎となる当該土地又は建物の価額は、当該贈与の時における価額から当該価額のうち当該災害によって被害を受けた部分に相当する額を控除した残額とする。

(注)上記の改正は、令和6年1月1日以後に生ずる災害により被害を受ける場合について適用する。

③ その他所要の措置を講ずる。

 

(暦年課税制度の見直し)

 暦年課税制度の見直しについて、その内容を具体的に確認してみましょう。

<現行の暦年課税制度>

贈与をしてから3年以内に亡くなった場合、その3年以内に贈与した財産は、相続財産に戻して相続税を計算する制度です。

<今回の見直しポイント>

亡くなる前3年分の贈与財産を相続財産へ持ち戻すのではなく、持ち戻し期間が亡くなる前7年となり、相続財産に戻す期間が4年延びることとなりました。
なお、亡くなる前の3年間に贈与された財産は全額相続財産に戻されますが、それより前の4年間に贈与された財産については、その合計額から100万円を控除した金額を相続財産に戻して相続税を計算します。

「資産移転時期の選択により中立的な税制」とあるように、早く贈与を行ったことで相続税が抑えられることは課税が中立とはいえないという考えから、相続財産に加算する期間が増えたと思われます。なお、この改正は、令和6年1月1日以後に贈与により取得する財産に係る相続税について適用されます。

 

なお、具体的な施策は次のとおりです。

① 相続又は遺贈により財産を取得した者が、当該相続の開始前7年以内(現行:3年以内)に当該相続に係る被相続人から贈与により財産を取得したことがある場合には、当該贈与により取得した財産の価額(当該財産のうち当該相続の開始前3年以内に贈与により取得した財産以外の財産については、当該財産の価額の合計額から100万円を控除した残額)を相続税の課税価格に加算することとする。

(注)上記の改正は、令和6年1月1日以後に贈与により取得する財産に係る相続税について適用する。

② その他所要の整備を行う。

 

(まとめ)

令和5年度税制改正大綱から、贈与税について次の見直しが行われることとなります。

①相続時精算課税制度に、年110万円の基礎控除枠が追加

②暦年贈与として相続財産へ戻される期間が、亡くなる前3年以内から7年以内に変更

③教育資金の一括資金贈与は3年、結婚・子育て資金の一括贈与は2年、特例期間が延長

 

現行の暦年課税制度は2023年(令和5年)までとなり、今後の相続対策について見直しが必要となります。どの制度を利用したら良いのか、年齢や資産などによりそれぞれ状況は異なりますので、税理士に相談することをお勧めいたします。