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国際税務Vol.58 国外不動産の取得価額の按分

国外不動産の取得価額の按分

 

国際税務Vol.58

皆様こんにちは。

国際間の取引に係る税務はこれまで様々な改正を繰り返してきました。抜け道的なスキームがあると、それを塞ぐような改正が行われ、納税者と当局とのいたちごっこの様相を呈しています。

国外で中古の不動産を取得しこれを賃貸に出し、耐用年数を簡便法で算出することにより多額の減価償却費を必要経費に計上して、不動産所得の損失と給与所得を損益通算するスキームがあったのですが、令和2年度の税制改正によりこの方法による節税ができなくなりました。(以前SUレター国際税務Vol.48でもご紹介させていただきました。

このように大胆な節税はできなくなったものの、国外の不動産を所有している日本の納税者は、少しでも税務上のメリットを受けたいと考えるものです。なんとかして減価償却費を少しでも多く計上するためには、建物の取得価額がポイントとなります。 

中古の不動産を取得した場合、土地と建物それぞれの取得価額を明確にして減価償却を行う必要がありますが、国内にある不動産については消費税の基本通達に定める基準を用いるのが合理的と考えられます。

1) 譲渡時における土地および建物のそれぞれの時価の比率による按分

(2) 相続税評価額や固定資産税評価額を基にした按分

(3) 土地、建物の原価(取得費、造成費、一般管理費・販売費、支払利子等を含みます。)を基にした按分


国外にある不動産の場合は上記をそのまま採用するのも難しく、日本の税務上問題ないように計算するにはどのようにしたらよいでしょうか。
米国に不動産を持つ日本の納税者が、現地の不動産鑑定評価額による按分に基づく金額で減価償却費を計上したのですが、税務当局は現地の固定資産税評価額で按分し更正処分を行い、納税者はこれを不服として争った事例があります。

米国においては、現地の鑑定士に評価を依頼すると、土地20%, 建物80%程度と評価されることが多いようで、おそらくこの納税者が当初採用した按分基準もこれに近いものであったと推測されます。国税側はこの鑑定は実地調査が省略されており信用できないものとして却下し、一方で現地における固定資産税評価額は、物件の所有者が変更された場合、その変更日の評価額を査定官が評価し直すものであり、合理性を有するためこれを採用すべきとしています。

最終的な裁決としては、現地における固定資産税評価額は固定資産の所有者変更時点の市場価格を評価するものであるといえるため、これを基準に按分することが妥当であるとの判断が下されました。


国外をまたぐ取引についてはいろいろと節税が可能なのではないか、と一瞬夢を見がちなのですが、現実はなかなか厳しいようです。