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国際税務Vol.60 国外事業者の消費税と税制改正~2割特例が使えない?~

 

 

国外事業者の消費税と税制改正~2割特例が使えない?~

国際税務Vol.60

こんにちは、SUパートナーズ税理士法人の木下です。

今回は国外事業者の消費税と税制改正がテーマとなります。

日本国外の非居住者や外国法人(以下、国外事業者)は、国内の事業者と同様に、国内で取引を行えば消費税が発生します。そのため、一定の売上規模であれば消費税の課税事業者となりますし、インボイス制度の対象でもあります。
(詳細は国際税務Vol51参照)

令和6年度税制改正によって、国外事業者における消費税額の特例計算ができなくなりました。また、免税事業者の判定も厳しくなりましたので、確認していきたいと思います。

 

国外事業者の消費税

事業者が国内の資産を譲渡した場合や、国内で役務提供を行った場合に消費税が発生します。これは、国外事業者も同じです。

例えば、外国子会社が日本の親会社のために国内に出張して役務提供を行ったケースですと、基準期間(前々事業年度)における課税売上高が1,000万円以下でしたら免税事業者になりますので、消費税を計算して国に納付する必要がありません。

しかし、親会社側で役務提供に係る支払消費税額の一部控除が取れませんので、外国子会社にインボイス登録させているケースが多いかと思われます。

 

国外事業者とインボイス

インボイス登録をした国外事業者は、自動的に消費税の納税義務者となりますので消費税額を計算して国に納める必要があります。

原則として、売上に係る消費税額から仕入に係る消費税額を控除して、納付する消費税額を計算します。
しかし、インボイス登録を行わなければ免税事業者となっていたものについては、売上税額の2割を納付税額として計算することができます(令和8年9月30日の属する事業年度まで)。

また、基準期間の課税売上高が5,000万円以下の場合には、売上税額に一定の率をかけたものを仕入税額とみなして、納付税額を計算することもできます(簡易課税)。

 

特例のためにはPEが必要

しかし、税制改正により期首時点で恒久的施設(PE)を有していない国外事業者は、2割特例や簡易課税の適用ができなくなりました。
PEは、支店や事務所など国内にある事業の管理を行うための場所です。
(代理人PEなどもあります)

PEを有しない国外事業者は、国内での仕入税額が少なく、2割特例や簡易課税が有利なケース多いです。これらの特例が適用できなくなりますと、納付税額の増大や、仕入税額の計算によって事務負担が増加することが予測されます。

 

納税義務の判定

国外事業者の納税義務の免除の判定にも改正がありました。
消費税の免税事業者に該当するかどうかは、

①基準期間の課税売上高が1,000万円以下であり、

②特定期間(前事業年度の期首から6か月)の課税売上高(※)が1,000万円以下であることです。
※居住者に対し国内で支払う給与等の支払額に置き換えることができます。

なお、基準期間のない新設法人等に関しては、次のいずれかに該当しますと課税事業者になります。

①期首の資本金の額または出資金の額が1,000万円以上

②基準期間相当期間における新設法人等を支配等している者の課税売上高が5億円超

 

外国法人は新設法人?

既存の基準期間のある外国法人が国内で新たに事業を開始した場合には、基準期間のない新設法人ではないため、上記判定はありません。
また、国内で取引を行っていなかったので、基準期間に課税売上はなく、免税事業者としてスタートとなっておりました。

しかし、税制改正により基準期間のある外国法人が、国内で事業を開始した場合には、基準期間がない新設法人等とみなして、納税義務の判定を行うこととなりました。

 

国外事業者は給与支給額が使用不可

特定期間の1,000万円以下の判定の際に、課税売上高に代えて給与等の支給額に置き換えることが可能でした。
国外事業者は、国内で給与を支払うケースが少なく、免税となることが多かったのですが、税制改正によって、国外事業者は給与等の支給額での判定ができなくなりました。

 

総収入でも判定

外国法人以外にも影響があるものですが、基準期間のない新設法人等が課税事業者となるケースについて、基準期間相当期間における新設法人を支配等している会社の総収入金額50億円超の場合が税制改正により追加されました。

総収入金額は課税売上とならない国外での収入も含まれます。そのため、国内で取引を行っていない外国法人の子会社などが、国内で事業を開始した際に、初年度より課税事業者となるケースが増える予測です。

なお、これらの改正は令和6年10月1日以降に開始する事業年度からの適用となります。