国際税務Vol.65 CRSって何?~CRS(共通報告基準)について~
CRSって何?~CRS(共通報告基準)について~
国際税務Vol.65
こんにちは、SUパートナーズ税理士法人の乾です。
今回はCRSがテーマとなります。
今回は海外に資産を隠したり、不正な方法で税金を逃れたりする人がいるため、世界中の国々は、このような国際的な脱税や租税回避を防ぐために協力し合っているというお話です。
その中心的な仕組みの一つが「CRS(共通報告基準)」です。
CRSって何? なぜ必要?
CRSは、「Common Reporting Standard」の略で、日本語では「共通報告基準」と呼ばれています。これは、OECD(経済協力開発機構)という国際機関が作った、金融機関が非居住者(外国に住んでいる人)の金融口座情報を税務当局に報告し、その情報を国同士で自動的に交換するための国際的なルールです。
なぜこのようなルールが必要なのでしょうか?
- 国際的な脱税・租税回避の防止: 昔は、海外の金融機関に口座を開設することで、その国の税務当局から日本の税務当局へ情報が伝わらず、税金を逃れることができてしまうケースがありました。CRSは、このような抜け穴をなくすために作られました。
- 公平な課税の実現: 正しく税金を納めている人にとっては、不正に税金を逃れる人がいることは不公平です。CRSは、国際的な税金の公平性を保つための重要な取り組みとして作られました。
- 金融市場のデジタル化への対応: 近年、電子マネーや仮想通貨(暗号資産)など、新しい金融商品がどんどん登場しています。これらを利用した脱税を防ぐためにも、CRSの仕組みは進化し続けています。
CRSの仕組み:どんな情報が交換されるの?
CRSに基づく情報交換は、大きく分けて以下のステップで行われます。
- 金融機関からの情報収集: 皆さんが銀行や証券会社などの金融機関に口座を開設する際、自分がどこに住んでいるか(居住地国)などを申告します。金融機関は、この情報に基づいて、その口座が非居住者のものかどうかを判断します。
- 税務当局への報告: 金融機関は、非居住者の金融口座情報(口座名義、住所、口座残高、利子・配当などの受取総額など)を、それぞれの国の税務当局に報告します。
- 国同士の情報交換: 各国の税務当局は、自国に報告された非居住者の口座情報を、その口座保有者の居住地国の税務当局へ、租税条約などに基づいて自動的に提供します。
つまり、日本に住んでいるAさんが海外の銀行に口座を持っている場合、その海外の銀行はAさんの口座情報をその国の税務当局に報告し、その国の税務当局は日本の国税庁にその情報を自動的に提供するという流れです。
どんな情報が交換の対象になるの?
- 氏名、住所、居住地国、納税者番号
- 口座残高
- 利子、配当などの年間受取総額
最近の改正(令和6年度税制改正)
金融市場のデジタル化の進展に伴い、CRSの対象も拡大しています。
- 電子マネーや中央銀行のデジタル通貨: 特定の電子マネー商品や中央銀行のデジタル通貨も、報告制度の対象に含まれるようになりました。
- 暗号資産への間接投資: デリバティブや投資手段を通じた暗号資産への間接的な投資もCRSの対象となります。
- 暗号資産等取引情報の報告制度の新設: 急速に拡大する暗号資産市場における国際的な脱税に対応するため、「暗号資産等取引情報の報告制度」が新設されました。これは、非居住者の暗号資産取引情報を、暗号資産交換業者などが税務当局に報告し、国同士で自動的に交換する仕組みです。2026年からの情報交換開始予定です。
日本の取り組みとCRSの活用事例
日本は、国際的な脱税や租税回避に積極的に取り組んでいます。国税庁は、2024年5月現在86の租税条約等(155か国・地域を対象)に基づき、外国税務当局との情報交換を実施しています。特に、CRSによる情報交換は年々増加しており、多くの情報が日本に寄せられています。
(図は国税庁レポート2024より参照)
グラフを見ると、特にCRS導入後、情報交換件数が大幅に増えていることが分かります。これは、国際的な情報交換が活発になり、税務当局の調査能力が向上していることを示しています。
CRS情報の活用事例
国税庁は、CRSによって得られた情報を、以下のような調査に活用し、実際に不正を摘発しています。
- 事例1:海外の金融口座の申告漏れ
- CRS情報から、日本の法人役員が海外の金融口座に多額の資金を持っていることが判明。その資金の出所や、そこから生じる利子・配当所得が申告されていなかった事実を把握しました。
- CRS情報から、日本の法人役員が海外の金融口座に多額の資金を持っていることが判明。その資金の出所や、そこから生じる利子・配当所得が申告されていなかった事実を把握しました。
- 事例2:法人売上からの除外
- 日本の法人代表者が海外に預金口座を持っていることが判明。一部の手数料収入を個人名義の口座で回収し、法人の売上から除外していた事実を把握しました。
- 日本の法人代表者が海外に預金口座を持っていることが判明。一部の手数料収入を個人名義の口座で回収し、法人の売上から除外していた事実を把握しました。
- 事例3:外国法人を使った所得隠し
- 日本の法人役員が実質的に支配している外国法人名義の海外預金口座を把握。その外国法人の所得について、日本の税制(外国子会社合算税制)が適用されるべき所得として申告漏れを指摘しました。
これらの事例から分かるように、CRSは、海外の金融資産や取引を通じて行われる脱税や租税回避行為を見つけ出し、公平な課税を実現するために非常に有効なツールとなっています。
まとめ
CRSは、世界中の国々が協力して国際的な脱税や租税回避を防ぎ、公平な税制を維持するための重要な国際基準です。金融機関が非居住者の口座情報を税務当局に報告し、それが国境を越えて自動的に交換されることで、海外に隠された資産や所得も把握できるようになりました。CRSではタックスヘイブン国からの情報も出てきており、一時代前では考えられない情報が入手できる時代となりました。今後もCRSは、金融市場の変化に合わせて進化し続け、国際的な税の透明性をあげていきそうです。