国際税務Vol.72 日本に住む米国市民・グリーンカード保有者の二重課税と外国税額控除 ~日米租税条約第23条3項「リソーシング・ルール」のしくみ~
日本に住む米国市民・グリーンカード保有者の二重課税と外国税額控除 ~日米租税条約第23条3項「リソーシング・ルール」のしくみ~
国際税務Vol.72
こんにちは、SUパートナーズ税理士法人の乾です。
今回は日本居住の米国市民・グリーンカード保有者に関する税務がテーマとなります。
近年、米国会計事務所などからの移住のお問合せが増えています。円安や日本への旅行で安全性の高さが評価されて移住を検討される方が増えているのかもしれません。一方、ビザの取得のための資格要件が厳しくなっている面もあります。
それでは、事例もまじえて見ていきましょう。
今回は「移住にあたり二重課税について、日本で外国税額控除を受けられるのか」というご相談を多くいただくため、この論点の鍵となる日米租税条約第23条3項(日・米租税条約)の仕組みをご紹介します。
1.なぜ二重課税が生じるのか
日本の居住者(永住者)は、国内・国外を問わずすべての所得が日本の課税対象となります。一方、米国は市民権・永住権に基づく課税を行うため、米国市民やグリーンカード保有者は日本に住んでいても全世界所得が米国の課税対象です。例えば日本で年末調整が済んだ給与でも、米国では Form 1040 による申告が必要です。両国で「居住者」として扱われる、いわゆる双方居住者(Dual Resident)となり、同じ所得に日米双方で課税が生じ得るのです。
2.日本での外国税額控除には制限がある
二重課税は通常、居住地国での外国税額控除により調整します。しかし条約第23条3項(a)により、日本で控除の対象となる米国税は「その者が米国市民でないとした場合に、条約上米国が日本の居住者に課税できる税額」に限定されます。
例えば米国株の配当であれば、条約上の限度税率10%分のみが日本での控除対象となり、市民権課税によって実際にはより高い税率が課されていても、その超過部分は控除できません(所得税法施行令222条の2第4項参照:所得税法施行令 | e-Gov 法令検索)。さらに利子や譲渡益のように条約上源泉地国免税とされる所得では、米国で課された税を日本では一切控除できず、二重課税が残ってしまいます。
3.救済策としての「リソーシング・ルール」
この残った二重課税を解消するのが、第23条3項(c)のリソーシング・ルール(日・米租税条約)です。
日本で課税された米国源泉所得を、米国の外国税額控除の計算上、あたかも日本源泉の所得とみなすことで、日本で納付した税額を米国の申告で控除できるようにする仕組みです。
【設例】日本居住の米国市民が米国法人から配当100を受領し、米国が条約に基づき10を源泉徴収。日本の税率25%、米国の税率35%と仮定します(税率は説明用の仮定値です)。
日本では源泉税10を控除した後15を納付します。次にリソーシングにより配当100を日本源泉とみなし、米国では税額35から日本税15を控除して20を納付。日米合計の負担は35となり、二重課税が解消されます。ただし米国側の控除は、米国の外国税額控除の限度額規定の範囲内に限られます。
4.実務上の留意点
外国税額控除の適用誤りは、近年税務調査での指摘が急増している分野です。どちらの国で控除を取るべきかの判定を誤ると、追徴リスクに直結します。また、米国での手続負担からグリーンカードの放棄を検討される場合、8年以上保有し、かつ放棄時の財産が200万ドル以上あるとき等には、米国出国税(財産のみなし売却益課税)の対象となる点に注意が必要です。保有を続ける間も、米国版の国外財産調書の提出など各種手続が求められます。
双方居住者の税務申告は、日米双方の税制と条約の正確な理解が不可欠です。該当されるお客様は、ぜひ当事務所までお気軽にご相談ください。

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